岡山県立図書館のロゴデザイン募集問題を現役のフリーデザイナーが考えてみた

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ロゴのデザイン費用っていくら位だと思います?

ちなみにココナラ の「ロゴ作成・デザイン」カテゴリーでは7,000円が最安値でした(Fujio調べ)、その他のクラウドソーシングでは大体5〜10万ほどの案件が多いようです。 かと思えば、有名なデザイナーになれば100万円単位でデザインの依頼が来ることもあります。

又、「ロゴ作成ツール」なるものも最近では増え、プロのデザイナーでなくても簡単にデザインを作ることが可能になってきました。

ロゴというのは、自社・組織の顔といえるもので、第三者の目に触れる一番はじめの入口といっても過言ではありません。ロゴから受ける印象で会社や組織へのイメージはガラリと変わりますし、ロゴのインパクトがブランドネームの認知を左右することもあります。

そんなロゴデザインのことである問題が話題になりました。

まずは下記をお読み下さい

採用作品が5000円しかも図書カードの上、著作権等の一切の権利は譲渡、かつ権利問題が発生した場合は全て応募者の責任だそうです。これはもうロゴマークデザインを凌辱する行為だと言っても過言ではない思います。こんなモラルとコンプライアンスに欠けたコンペを地元岡山県が主催していることが怒りというよりショックであり、デザインリテラシーの低さにただただ呆然としています。
プロ・アマ問わず応募できるようですが、こんな条件で到底プロが応募するとは思えない。千歩譲って、どこかようわからん施設なら素人向けのコンペでもいいけど、事務所から近く個人的にとても愛用しており、何より岡山県を代表する公共文化施設に、素人が作って素人が選考した無様なロゴマークは絶対いらないわ。まあもしかしたらめっちゃええのができるかもしれませんが・・・。苦笑
しかし佐藤卓日本グラフィックデザイナー協会会長、働き方改革の推進、性的少数者などの人権尊重や各種ハラスメントの防止などをより強固なものにしていこうとするこのご時世に、こんなデザインとデザイナーを愚弄したコンペを野放しにしたままでいいんでしょうか?あの時のように誰かが犠牲にならないと変わらないのでしょうか?

クオデザインスタイル/田中雄一郎氏facebookより引用

上記は岡山県立図書館の開館15周年ロゴデザイン募集に対してクオデザインスタイル/田中代表がSNSで発信したものです。

岡山県立図書館ロゴ募集問題についてまとめ

では、ざっくりと流れを要約します、

図書館がロゴのデザイン募集に際して、採用されたデザインの制作者への報酬として5,000円(図書カード)を提示した。 それに対してプロのデザイナーなどから「安すぎる」、「著作権に対して認識が甘い」「デザイナー軽視だ」などの意見が出た。という感じです。
これに対して同業のデザイナーからは賛同の声があがったのですが、一般の人からは 「嫌なら応募するな」「そんなに騒ぐことではない」などの批判的意見が噴出、なかなかの騒動となりました。

新聞社やYahooのヘッドラインニュースに掲載されるなど、どんどん注目度があがっていったわけですが、 デザイナーが危惧を警鐘しているポイントと、メディアの取り上げられ方による一般的な市民の皆さんの反応には 少々乖離している部分はあるんじゃ無いかと私は感じています。「怒りの声」なんて煽りすぎ(苦笑)

私なりにデザイナー側の主張をまとめてみる

デザイナーの主張

プロアマ問わずで5,000円という金額とそれが欲しいかどうかみたいな議論では無く、コンペの考え方が問題だ。 応募作品に関する著作権等の一切の権利は、岡山〜に帰属します。なのに著作権などの権利に関わる問題が発生した場合は全て応募者の責任って書いてある。その代償が5,000円でいいのか?
審査員はじゃあ誰がするの?ちゃんと目利きできる人がやるの?リライトする?プロが?それ公開する?そういう事はまったく記載が無いのに、権利とかトラブル回避だけはちゃんとしている。あまりにも無責任でデザインの価値を分かっていない!

という感じでしょうか

一般の方の反発意見はどうも「5,000円」に固執しすぎているきがします。
繰り返しになりますが、「5,000円は安すぎる」ということだけではなく「ロゴについての考え方」や「デザインの権利」の考え方についての主張だと私は思います。

下記はこの件についての私のツイートです。

ツイートにも書いたように、 デザイナー側の主張は痛いほど分かります。

しかしこの件に限って言えば「ロゴ・デザインの価値が大きなものだ」とデザイナー側が考えすぎているような気がします。言い方を変えれば「デザイナー」という肩書きを振りかざして「デザインとは」を押しつけているような印象を受けます。
デザイナーは「このロゴデザインは完成までに100案作った、○○時間かけた。」と、いうことを言いたがりますが、正直それはデザイナー側の勝手な主張であって、クライアントには全く関係(価値)の無いことです。
クライアントからすれば「100時間」だろうが「1時間」だろうが、「プロ」だろうが「アマ」だろうが、一番大切なのは成果物(ロゴデザイン)がもたらす社会的認知の向上・ブランディングの確立・商業的な利益だからです。図書館側は「一般市民の方から募集した愛されるロゴデザイン」という考えが先行したのでこのような募集要項になったのだと思います。

私もデザインを生業にしている身ですので、「デザイナーの時間」の価値も、それを主張したい気持ちも分かります。
でもクライアントにとっては「デザイナーの仕事」だろうが「こどものお絵かき」だろうが、企業の利益になるのならどちらでもよい、 というのが極論だと思っています。では「プロの仕事とは何か」これはデザイナーが一生自分に問いかけ続けることです。

この募集の問題点

私が考える一番の問題点は「権利」についてです。今回の件だと「著作権等の権利に関わる問題が発生した場合は、全て応募者の責任となります」とあります。
デザインをしていると、意図せず他者が制作したデザインに似てしまうことはよくあることです。例えば著作権侵害で訴えられたときに 相手が世界的な有名ブランドのロゴだったりした場合の賠償額はとんでもないことになります(東京オリンピックのロゴ問題もありました)
それだけの責任を一般の方に背負わせるのか?その対価が5,000円?その辺の認識の甘さがあったと思います。一般の方が「あっ、ロゴのデザインって5,000円で出来るんだ」と思われてしまうとそれはそれで困りますが(苦笑)

どのような募集にすれば良かったのか

デザイナーが求めるようなガチガチのコンペにする必要はなかったと思います。
ただ、法律的な問題が発生した場合は、「図書館側で責任をとる」としたほうが良かったのではないでしょうか。デザインはだれでも作ることができるし、自由なものですが、そこにはリスクがあることを募集する側も考えなくてはいけませんね。

デザイナー主張まとめ

個人的には今回のコンペは市民に愛される施設のロゴを一般の方に幅広く募集したいという意図があったと思います。そこに対して「公式なコンペでなくては」とか「プロでなくては」という考えを押しつけるのはいささか、図書館側も不憫な気がします。
「素人」が「プロ」以上の仕事をすることはどの業界でもあることで、現にアマチュアのロゴデザインが採用された世界的有名企業はいくつもあります。記事中でも書きましたが「プロ」、「アマ」で違いがあるとすれば、デザインに対して信頼性や展開を的確に提案することがプロに求められるのではないかと思います。
図書館側の準備や説明が不足していたことは否めませんが、「プロの仕事を軽視した」と捉えるのは少し上から目線の考え方ではないかと・・・。

ロゴ作成の無料ツールや無料アプリを使う上での注意

これらのツールで作られたデザインは権利の所在が不明確な場合が多いです。誰が作ったか、という事実が非常にあやふやなため、正式なロゴとして採用するにはリスキーです。デザインしたのは誰か、所有権や商標権は誰に帰属するか、というような問題をクリアするには、デザイナーに直接相談するのが最も早くて確実な方法です。無料でロゴを作って、会社や組織のロゴとして正式に採用してからこのような問題が勃発してしまうと、関係各社に大きなストレスを与えるとともに、やりたいことがスムーズにできなくなってしまうかもしれません。そのようなことがないように、デザイナーとしっかりコミュニケーションを取りながら、構造や意図のしっかり反映されたロゴデザインを作ることが、まずは会社や組織としての第一歩なのかもしれません。

SNSでの反応(賛否)

https://twitter.com/workinghamutaro/status/1153876660053131264?s=20

下記のクリエイターさんの記事は私も非常に共感でき、気持ちを落とし込める物でした。

この記事の参考リンク:https://ksb.co.jp/newsweb/index/14224